<幕末>
逸話が死ぬ寸前まで格好良すぎな伊庭さんが、1番本音を言う相手は誰かなーという話です。
伊庭と人見。
いつも以上に場所や設定がフィーリングです・・・
「おーい、八郎いるか?」
ガラリと人見が伊庭の部屋の戸を開けた。
しかし部屋はものけの空。
いや、人の居た気配はあるから、何か小用で出かけているということか?
どちらにせよ、下手に探すよりここで待っていたほうが確実だろう、と人見は腰を下ろした。
何しろ伊庭の行動範囲は広い。というより予想出来ない。
例えば新しい組み紐を探しに出ていたとしよう。
当然のごとく、人見は店へ向かう。
ところがフと気付くと、隣に並んで歩いていた伊庭が消えている。
慌てて周囲を見回すと、思いもよらない方向の店からひょいと顔を出して笑うのだ。
「おーい人見さん、こっちに凄く美味そうな団子屋があるんだけど、ちょっと寄っていかないかえ?」
伊庭はそういう気質だった。
春風のように自由で、普段は世間の目なぞ気にしない。
基本的に自分のやりたいことをやる。
もっとも、愛想も江戸っ子の粋も持ち合わせた伊庭に掛かれば、振り回される周囲は笑いこそすれ嫌うことは無かったのだが。
そのくせ変なところだけ律儀で真面目なのだ。
鳥羽伏見で幕府軍が薩長に散々負けて、将軍が謹慎した後も滅びゆく幕府を見捨てられず、結果箱館という北の果てまで来たり。
箱根は、敵に左手を斬られ、もう動かない邪魔なそれを、自分で斬り落とした。
それでも戦意を失わず、気丈に振舞ってここまで来た。
格好つけとも言う。
このくらい屁でもないなんて見得張ってたけど、嘘付けよ。
昔、虫歯になっただけで道場の稽古3日も休んだくせに。
ざわり。
胸のうちを黒いものが動く気配がする。
格好つけるんじゃねーよ、と小さく呟いた。
ふいに机の上に何かあるのに気がついた。
帳面のような、無造作に開かれた冊子状のもの。
表をみると、丁度今考えていた京での出来事を綴った日記のようだった。
人見は普段なら人のものを勝手に見るようなことはしないのだが、今まさに思い出していたことであったし、そもそも共通して過ごした記憶だったので、懐かしさに誘われてつい中身をめくった。
ぺら、ぺらと目を通していくにつれ、人見の顔が険しくなる。
そこへ、当の伊庭が帰ってきた。
「おや、人見さんじゃないかえ。
何か用…… って、おいらの日記読んでるんじゃないよ!」
もう、人見さんの助平!と非難する伊庭に、見られて困るならこんなに堂々と置いておくなよ、と人見が言う。
その視線が何故か普段より白い。
ん?といぶかしむ伊庭に、おまえさぁ、と人見は溜息をついた。
「勝手に見たのは悪かった。
でもお前………これ京で将軍様の護衛をしてた時の日記だろ?
なのに何で中身が全部、食べ物や観光のことなんだよ」
心底呆れた風な人見に、慌てて伊庭が弁解する。
「ちが、そーいう意味で描いたんじゃないさね!
だって人見さん、武士が政について四の五の文句を書くなんて、男らしくないじゃないかえ。
そういうのを抜かしたら、自然とそういう中身になったの。」
「と、言うことは文句自体はあったわけだな」
「うっ」
返答に詰まる伊庭に、日記を返した。
こいつはいつもそうだ。あぁもう、全く。腹が立つ。
「お前なぁ、格好つけるのも大概にしとけよ。
日記なんて自分の為につけてるもんじゃないか。
なのにその中でまで格好つけて、ならお前の文句や不満は何処に行くっていうんだよ。
いくら江戸っ子って言ったって、お前だって泣きごと言うくらい、俺は知ってるんだぞ」
どうだ、言い返せるものなら言い返してみろ。
そう人見が睨んでみせると、一瞬きょとんと呆けていた伊庭だったが、次の瞬間には思い切り笑い始めた。
「あっははははは、人見さんてば、何を怒ってるのかと思えば………!」
怒ったのに笑い返され、人見は憮然とした顔をする。
「ごめんごめん………
人見さんがあんまり頼もしかったから。
おいらの泣き言は、それが普通だって知ってる人見さんに全部言うから大丈夫だよ」
「は?」
「だっておいら、歳さんとか他の奴らの前で格好悪いとこ見せたくないもの。
見せるのは、おいらの格好悪い所も全部知ってる人見さんにだけさね」
そーゆーわけで、これからもよろしく。
清々しいほどの笑顔で伊庭に言われて、人見は思わずごちた。
「面倒な役にしやがって………」
逸話が死ぬ寸前まで格好良すぎな伊庭さんが、1番本音を言う相手は誰かなーという話です。
伊庭と人見。
いつも以上に場所や設定がフィーリングです・・・
「おーい、八郎いるか?」
ガラリと人見が伊庭の部屋の戸を開けた。
しかし部屋はものけの空。
いや、人の居た気配はあるから、何か小用で出かけているということか?
どちらにせよ、下手に探すよりここで待っていたほうが確実だろう、と人見は腰を下ろした。
何しろ伊庭の行動範囲は広い。というより予想出来ない。
例えば新しい組み紐を探しに出ていたとしよう。
当然のごとく、人見は店へ向かう。
ところがフと気付くと、隣に並んで歩いていた伊庭が消えている。
慌てて周囲を見回すと、思いもよらない方向の店からひょいと顔を出して笑うのだ。
「おーい人見さん、こっちに凄く美味そうな団子屋があるんだけど、ちょっと寄っていかないかえ?」
伊庭はそういう気質だった。
春風のように自由で、普段は世間の目なぞ気にしない。
基本的に自分のやりたいことをやる。
もっとも、愛想も江戸っ子の粋も持ち合わせた伊庭に掛かれば、振り回される周囲は笑いこそすれ嫌うことは無かったのだが。
そのくせ変なところだけ律儀で真面目なのだ。
鳥羽伏見で幕府軍が薩長に散々負けて、将軍が謹慎した後も滅びゆく幕府を見捨てられず、結果箱館という北の果てまで来たり。
箱根は、敵に左手を斬られ、もう動かない邪魔なそれを、自分で斬り落とした。
それでも戦意を失わず、気丈に振舞ってここまで来た。
格好つけとも言う。
このくらい屁でもないなんて見得張ってたけど、嘘付けよ。
昔、虫歯になっただけで道場の稽古3日も休んだくせに。
ざわり。
胸のうちを黒いものが動く気配がする。
格好つけるんじゃねーよ、と小さく呟いた。
ふいに机の上に何かあるのに気がついた。
帳面のような、無造作に開かれた冊子状のもの。
表をみると、丁度今考えていた京での出来事を綴った日記のようだった。
人見は普段なら人のものを勝手に見るようなことはしないのだが、今まさに思い出していたことであったし、そもそも共通して過ごした記憶だったので、懐かしさに誘われてつい中身をめくった。
ぺら、ぺらと目を通していくにつれ、人見の顔が険しくなる。
そこへ、当の伊庭が帰ってきた。
「おや、人見さんじゃないかえ。
何か用…… って、おいらの日記読んでるんじゃないよ!」
もう、人見さんの助平!と非難する伊庭に、見られて困るならこんなに堂々と置いておくなよ、と人見が言う。
その視線が何故か普段より白い。
ん?といぶかしむ伊庭に、おまえさぁ、と人見は溜息をついた。
「勝手に見たのは悪かった。
でもお前………これ京で将軍様の護衛をしてた時の日記だろ?
なのに何で中身が全部、食べ物や観光のことなんだよ」
心底呆れた風な人見に、慌てて伊庭が弁解する。
「ちが、そーいう意味で描いたんじゃないさね!
だって人見さん、武士が政について四の五の文句を書くなんて、男らしくないじゃないかえ。
そういうのを抜かしたら、自然とそういう中身になったの。」
「と、言うことは文句自体はあったわけだな」
「うっ」
返答に詰まる伊庭に、日記を返した。
こいつはいつもそうだ。あぁもう、全く。腹が立つ。
「お前なぁ、格好つけるのも大概にしとけよ。
日記なんて自分の為につけてるもんじゃないか。
なのにその中でまで格好つけて、ならお前の文句や不満は何処に行くっていうんだよ。
いくら江戸っ子って言ったって、お前だって泣きごと言うくらい、俺は知ってるんだぞ」
どうだ、言い返せるものなら言い返してみろ。
そう人見が睨んでみせると、一瞬きょとんと呆けていた伊庭だったが、次の瞬間には思い切り笑い始めた。
「あっははははは、人見さんてば、何を怒ってるのかと思えば………!」
怒ったのに笑い返され、人見は憮然とした顔をする。
「ごめんごめん………
人見さんがあんまり頼もしかったから。
おいらの泣き言は、それが普通だって知ってる人見さんに全部言うから大丈夫だよ」
「は?」
「だっておいら、歳さんとか他の奴らの前で格好悪いとこ見せたくないもの。
見せるのは、おいらの格好悪い所も全部知ってる人見さんにだけさね」
そーゆーわけで、これからもよろしく。
清々しいほどの笑顔で伊庭に言われて、人見は思わずごちた。
「面倒な役にしやがって………」

